しかし、結婚してからは、活動らしき活動はしていません。豊かな声量と、この頃の女性歌手としてはまれな広い音域をカバーする特徴を備え、しかも、コンサートでは自分の歌を「数々の名曲」と言ってはばからないウイットも持ち合わせていました。
今どうしているでしょうか。
現役でいる歌手は、もうほとんど残っていません。あのユーミンは68歳中島みゆきは71歳ともなれば、ここまで現役を続けられている方が凄いと思いますが……。もっとも、矢沢永吉なんて言う存在もいますがね。(72歳なので、そんなに凄いということもないですが)
ここからは、想像ではありますが、もしまた五輪真弓が舞台に登ることが有るとしたら、その時は見事な声を聞かせてもらえると思います。
池袋のパルコ劇場で、毎年開催していたライブでは、軽妙なトークを交えた語り中心の前半と、歌を思いっきり聞かせる構成の後半の二部構成の舞台を、何度か前の方の席で見た事が有ります。
そして、彼女のプロ意識をしっかり見届けたシーンが有りました。
シンプルな舞台なので、歌は全てカラオケです。マイクを持ちながら、白い装束でゆっくりと謳いながら舞台の前の方へ歩いてくるシーンで、それは起きました。彼女の歩いていた床と思っていたのは、実は数多くの箱を敷き詰めてその上に大きな布を敷いただけのセットだったのです。
箱の高さは一定にそろえられていましたが、その敷き詰め方が甘かったのか、彼女のピンヒールがあろうことか箱と箱の隙間に落ち込んでしまったのです。当然からだは大きく揺れ、かなり傾きました。
しかし、マイクが拾った声は、全く何の出来事もなかったように、朗々と発する歌声そのものでした。
素人だったら、あまりのことに声を止めるどころか、キャーッという嬌声を発してもおかしくない場面です。しかし、顔色はまったく変わらず、平然と同じペースで歩を進めて、曲は進行していきました。この時ばかりは、歌い終わると物凄い歓声が上がったことは、想像が付くでしょう。