そう、今のは登場した時は、「練り歯磨き」と言っていたんです。
歯磨きが登場した当時は、すべて製品は粉の状態で売られていました。リンゴに近い形の瓶で、何故か瓶の色はみな緑色でした。
そして、今だったら「ウッソウ〜」と思われるかもしれませんが、家族全員がその瓶の中の粉に、自分の歯ブラシを突っ込んで、粉を付けて磨くというのが、当時の普通のスタイルだったんです。
また、瓶の形も各メーカー皆ほぼ同じだったもんですから、瓶のふたを見なければ、見分けは難しかったですね。
で、誰か無精をして、濡らしすぎた歯ブラシの水を切らないで粉を付けたりすると、後になって粉が玉になっていることが結構頻繁に起きて、そのたびに兄弟げんかの素にもなっていたんです。
のどかって言えばのどかな今のコロナ禍を考えたら、とても恐ろしいと言われるようなことでも、平気でしたね。
もう一つ、いつも親が眼を光らせていたのは、粉の量です。あんまりたくさん付けるとすぐに無くなってしまうから、という理由の家もあれば、
粉を付けたふりをしてただ口の中で歯ブラシを動かしていたり……いろいろです。
そして、歯ブラシもまた、いまのように腰の強いナイロン製品は無かったですから、歯ブラシの材質は、豚の毛だったのです。だから当然、色は茶色っぽいもので木の柄に植えこんでいましたので、少し古くなると毛が抜けてしまうんです。これが口の中で悪さをするもんですから、毛って嫌なものだと思う人もたくさんいました。
しかも、歯垢をかきとるほどの腰は確保できていませんでした。また、ローリング法とかバス法が推奨される前のことで、歯ブラシの動かし方を教わることは、小学校の保健体育の時間に一回やったきりというレベルでした。
だから、虫歯が多かったのも頷ける話なんです。