さて、この事件を扱った様々なドラマや映画では、2月26日当日は必ず降りしきる雪の中で、粛々と突き進む青年将校の群像が描かれています。そのため、私たちの記憶は、この日は雪だったんですね、となるのですが、気象庁の記録を見ると、この日は降雪が記録されていないんです。テレビや映画館の大スクリーンでの降りしきる雪のシーンばかりに馴らされてしまった私たちは、既にこの日は雪が降っていたとの固定観念がメディアによって作られてしまっていたのです。
どうしてそうなってしまったのでしょうか。
気象庁の記録によると、三日前の23日に36cmのかなりの降雪が有り、続く2日間は低温が続いていたので、雪がなかなか融けなかったとあります。そして、事件の翌27日に、また7cmの降雪を見たのです。ですから、人々の古い記憶には雪降りの画面を繰り返し見せられることで、雪が降っていたかどうかが曖昧になってしまった ― 記憶のすり替えが起きてしまったようなんです。
もう一度、美術品店創業者の言葉を確認しましょう。
「あの日は雪が積もっていてね。」と言っていて、雪が降っていたとは言っていないんです。事実、気象庁の積雪の記録では、23日は36cm、翌日は29cm25日は21cm、そして当日は13cmの記録が残っているのです。最高気温も7℃に達していません。
天気の状況をいちいちどうのと言うんじゃないよ、細かいなぁと誹られるかもしれませんが、相棒の右京さんではありませんが、「細かいところが気になるのが悪い癖」なんです。